△2五奔猪(ほんちょ)

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「……スカーレット鳳凰(ほうおう)」  すっ、と余分な力が入ってなさそうなその素立ちにも見える構えには、まるで隙が無い。このヒト相当強いよな……と感心する一方で、え? 色被ってない? との妙な不安も脳裡に去来しつつあるが、 「……あんま気張り過ぎると、周り見えんくなるで。大事なのは『大局観』。平常心やで新人くん」  そんな僕の硬直を見て取ったか、フウカさんが軽やかな声を掛けてくれる。そして気負いの無さそうな声で、ダイショウギチェンジぃ、と言い放つと、その肉感的かつ流麗な肢体は透き通って光沢のある、エメラルドのような色の輝きに包まれる。 「……グリーン反車(へんしゃ)ぁっ」  一瞬後現れたのは、全身にフィットした緑色のスーツによって、隠された分だけ逆になまめかしいシルエットの、「戦士」だった。両手の指先、両足の爪先が、黒い金属質のもので覆われている。  陸上競技のクラウチングスタートのような格好から顔を持ち上げ、その存在感を放つ双球をさらに強調させた、獲物に飛び掛かる前の女豹のようなポーズでキメている。  ああー、足速そう、とのおざなりな感想を思い浮かべるだけの僕だったが、畳みかけるようにまた赤、みたいなパターンじゃなくて本当に良かった、そしてちゃんと基本に則った三原色で良かった、との安堵がどうしても先に立ってしまっているのでそこはしょうがない。
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