▲2六白駒(はっく)

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「向こうは律儀に『一手10秒未満』で指してくるが……当然、こちらはそんなルールくそくらえだ。『二手差し』『三手差し』上等。本能の赴くまま、存分に暴れてみせろ、『レッド獅子』」  ミロカさんは「2八」の本将棋でいう飛車の初期位置で、両手に銃を握ったまま、腕組みをして立っている。  その言葉は「8八」に突っ立っている僕に、確かに向けられていた。初めてまともな役職(?)で呼ばれたよ。対局後の折檻を和らげるためにも(いや和らげる必要はあるのだろうか)、やはりここは決めるしかない。 「……」  意識して深い呼吸を繰り返す。実は初めて「変身」したその時から、この「獅子」の中に眠る荒唐無稽な「能力」については、大脳の隙間に直で差し込まれたかのように「理解」を終えていた。  もとより、しょっぱい棋力の僕だ。だが、将棋のルールすらも分からなかった頃、それでも毎日父親と盤面を挟んで、駒を無茶苦茶に動かしながら、遊んでもらっていた時のことを、何故か思い出していた。父さんも僕も笑顔だった。楽しかった思い出として、それは今も僕の頭に残っている。  そんな将棋があってもいい。将棋は無限だ。無限の可能性を、ちょっとねじくれたベクトルに放射しても、いいじゃあないか。 「……フオオオオオオ、オ?」  と、無理くり闘志を滾らせてから突撃を開始しようとした僕の眼前で、既に局面は動き出していたわけで。
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