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<5二金左>
金属を擦り合わせたような耳に障る音声が辺りに響くや、変貌を遂げたフウカさんと敵方の玉の間に、王を守らんとばかりに、黒い将棋駒「金」が飛び出してくる。
「か~ら~の? ……『5七鯨鯢』」
しかし一方のフウカさんは、相手「金」の射程距離に入ったにも関わらず、まったくの余裕でひらりと後方の初期位置へと宙がえりをかまして戻ってみせる。この空間は重力弱いんだろうか。ま、かといって僕にあれだけの芸当は出来るべくもないが。
あっさり玉前の「歩」を殺して、成りまで入れた早業に、思わず「成駒屋ッ」とでも掛け声をかけたくなるが、局面はそう楽観もしてられない。相手も相手で次々と指し手を進めて来る。
<3四歩>
角道を開ける定跡通りの手であり、普通の対局だったら、そこまで警戒することもない。ただ、今の我々には心強い防衛ラインである「歩」の皆さんが一枚も無い状態のわけで、すなわち、「8八」にいる僕にその「角」は直射しているわけで。守ってくれる駒も周りにはいないわけで、ここはかわす他はない。
「な、『7九獅子』っ!!」
「獅子」は周囲どこでも二マスまで自由に動ける、「玉」の上位互換のような破格の駒だ。ゆえに色々指し手はありそうなものの、とりあえず、相手角の成り込みを防ぐ位置へと引いてみた。
「おい、腰引けてんじゃねえぞ」
そんな僕を見て、右方向からミロカさんのドスの利いた声が刃物のような鋭さで飛んでくるけど。えー、何でそんなにも好戦的なのー。僕のことなどは一瞥もせずに、その美麗少女は正面からは目を切らずに、ぐっ、と体勢を縮めてから、行動に移っていく。
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