△2九竪行(しゅぎょう)

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 結局のところ、本対局にて、僕に見せ場は訪れなかった。  二人の少女にいいところを見せ、きゃーのきゃーの言われることなど、いつもの僕の大脳が描く妄想に過ぎなかった。  あったのは、意気込んで突進していった8五の地点に、向こうからも狙いを定めた飛車先の歩が突き出され、それにびびって横っ飛びに交わしたところで、相手方の玉がミロカさんフウカさんという二人の強力な「駒」によって即詰みに討ち取られて、それで呆気なく終局となったという結果だけであった。 <ア、負ケマシタ>  無表情な小声の機械音声と共に、決着がついたことが告げられる。  盤面に残っていた「二次元人」たちは全て、その黒い巨大な五角形の体にぱしりぱしりと亀裂が入り、次の瞬間、一斉に爆散した。  その衝撃と共に、今まで確かに重力を発生させていた「足場」も、ぴんと張られたワイヤーがたわむようにしてあやふやに霧散し、宇宙空間のような闇に投げ放り出されるような感覚が、僕らを襲う。  立ちくらみのような白い闇が僕の視界を覆い、意識も遠のきかけたところでいきなり慣れ親しんだ地球の重力が戻ってきて、僕は飛んでいた夢を見ていた時のように、足がびくっとなってから「現世」へと戻ってきたことを知覚する。  先ほどの公園だった。穏やかな日差しは、先ほどまでの修羅場の存在を遥か遠くに感じさせる。  変身は何故か解けていた。芝生の上に真顔で座り込んだまま、僕は同じく変身が解かれていたミロカさんフウカさんが、どうやら気を失っているらしい警官の皆様方を介抱しているのを眺めていた。
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