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「そろそろ自分帰ります。走って帰って弟と実況検討しないと」
頃合いと見て、くるりと踵を返そうとする僕だったが、
「待たれよ選ばれし勇者」
いかんのじゃないでしょうか、そんなAIを刺激するような言葉を連ねたら。
しかしその白衣の老人は、もう完全に自分の世界に入り込んでいるかのようで、そしてその世界を触手のように張り伸ばしてきて、こちらを絡めとろうとする気満々であろうことは、その焦点の定まらなくなってきた眼を見なくても肌でわかってきてしまうわけで。
要するに、僕らは似ている。のだと思った。同族のニオイを感じ取ったといえば、そうなる。
将棋至上のこの国では、将棋以外の物に没頭する者は異端とされ、時には取り締まられるまでに至っている。個性が、潰されていると言っても過言ではない。
将棋の奥深さは知っている。その魅力も、底抜けの深さも、まがりなりにも。
だがそれ以外を全て否定してしまうのはどうなんだろう?
「……君は、近頃増加している『失踪事件』を知っているかい?」
と、老人は自分の端末に何か動画らしきものを表示させると、それをしばしの逡巡に陥っていた僕の方へ向けてきた。
<真昼の怪! 総田四級(12)、謎の消失?>
そんな煽情的な文句が躍る、ニュース映像だ。知ってるも何も、何回もトップニュースに上がっていた奴じゃないか。
「……『たまたま』、奨励会級位者が事件に巻き込まれたから、こうして大きく取り上げられているが、それ以前にも、この千駄ヶ谷界隈で、人の消失が立て続けに起こっている。それも、一度に何人もの数が、だ」
老人はそう告げてくるが、え、そうなの。
「人の消失」……それに「一度に何人も」っていうのは、割と尋常じゃあない。それが立て続けとなれば、尚更。
でも……じゃあ何でそこがクローズアップされず、「有名人が」、っていうところが強調されているんだ?
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