△2九竪行(しゅぎょう)

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 それが先ほど、小一時間前ばかりのことだ。 「……」  そして今、僕はコンクリの地べたに、正座させられている。 「……お前はあれか、見学者か傍観者のどっちかなのか?」  何故か竹刀を携えたミロカさんが、その切っ先で僕の顎先を小突きながら問うているけど、何だろう、このシチュエーションは。  公園での「対局」を終えて、ちょっとした放心状態だった僕は、オラ戻るぞ、とミロカさんの促しに流されるまま、例の地下施設まで今度は駅前の雑居ビル地下から繋がるトンネルのような地下通路を経て、戻らされてきたのであった。  そしてこの六畳くらいの打ちっぱなしの殺風景な密室で、軍曹のような問いかけをしてくる美少女と対峙している。  目の前には、仁王立ちしているぴったりとしたレギンスに包まれたきゅっと締まった流麗なラインがあるわけで、そちらの方向から漂ってくる柑橘系のフレグランスと甘い体臭のようなものが混じり合った強烈なフェロモンのようなものがこの小部屋には充満しているかのようで、僕の意識はまたしても現実感を掴み取れずに右往左往している。しかし、 「鵜飼(ウガイ)ィィィィィッ!! トクト教官の質問だァァァァァァッ!! 答えろォォォォォォッ!!」  ミロカさんの横から突拍子も無い怒声が飛んでくるけど、何これ。  上目づかいで恐る恐る見上げると、もうひとりの小柄な少女の姿があった。うちの学校の臙脂色のジャージの上下に、足元は使い込んだ下駄を何故か履いている。後ろに結んだ黒髪はサラサラしてそうなのに、こちらを凛々しく見つめてくる顔立ちは少し幼いながらも可憐であるというのに。  どうして、またもや厄介そうなメンタルの持ち主が現れたのだろう……と、真顔のまま、いいえ、私はレッド獅子です、と抑揚のない声で返すことしか出来ない。
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