△2九竪行(しゅぎょう)

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「……『獅子』ならば、なぜ戦場を縦横に駆け巡らん? なぜことごとく後塵を拝す?」  ミロカさんが竹刀を掌にぱしぱし当てながらそう尋問を続けてくるけど、これあれだ、説教だ。ここは説教部屋なのかー、と薄々僕は感づいたものの、だからと言って何をすることも出来ない。出来やしない。それに、 「……トクト教官の問いにはァァァァッ!! 迅速かつ正確に答えよォォォォッ!!」  その隣から素っ頓狂な甲高い声を被せて来る、さらさら黒髪ポニーテールの少女。何も喋らなければ、たぶん図書委員とかが似合いそうな、大人しげな佇まいなんですよ? それなのに僕が返答に詰まるごとに、顔にこれでもかと力を込めて、僕をハイトーンボイスで面罵してくるのですよ?  ……もう帰りたい。バカにされようとカモにされようと、もっと平常な日常に戻りたい。 「……その馬鹿げた『バネ』を付けてたから、動けませんでしたとかは言い訳にならんぞ」  その口調もどうにかなりませんかね。でも据わっている目を見ると、そうも切り出せないし、切り出しても何の益もないので、僕はじっとこの嵐が過ぎ去るのを待つ構えに入る。  しかしそれを見越したのか、ミロカさんは多分意図的に、僕が張って少しみみずばれになってしまっている左頬をぴくぴくとさせながら、笑ってるんだか怒ってるんだか、ちょっと判別できない表情を左右アシンメトリックに浮かべ、僕に竹刀を突きつける。 「……私には閃光のような一撃を放てたというのに? 最下等の『駒』たちには逃げ腰で? 何も出来ませんでした?」  うっすら浮かべた笑みが本当に怖い。ミロカさんは僕の眼前に顔を近づけると、息を吸い込んで力を溜め始める。来るぞこれ。 「……そんなことがあぁぁぁるかぁぁぁぁぁぁっ!!」 「あるかァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」  左右の至近距離から思い切り怒鳴られた。もう勘弁してくださいよ。 「……はたいてしまった事は謝ります。すいませんでした」  抑揚のない声で謝罪したのは、最悪手だったのかも知れない。
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