△2九竪行(しゅぎょう)

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「なぜ謝る? 私にこれしきの貧弱な打擲が効いたとでも? ……自惚れるんじゃあなぁぁぁぁぁぁいっ!!」 「このうすら『と金』がァァァァッ!! 身の程をわきまえろォォォォッ!!」  ダメだ。ああ言えばこう言うの泥沼スパイラルにもう両脚共に突っ込んでるわ。そろそろ移行し始めてきた諦めの境地に、僕はしかし、少しは反抗してやろうという気分に肝が座っても来ていた。何故ここまで罵倒されなけりゃあならないんだ。  子供たちを巻き込もうとしたことは本当に許し難かったことだし、それにもう僕には失うものなどない。最後にしっちゃかめっちゃかやってやろうっつうの。  少しやさぐれた顔つきになった僕を見て、ミロカさんとその隣の少女は少し戸惑った顔つきで一歩引く。 「……何だ、その反抗的な目つきは。言いたいことがあるなら言っておけ」 「言えェェェェッ!!」  ならば、言う。 「……ミロカさん、あなたのことが好きです。好きだから……好きだからッ!! 思わずはたいてしまったんだッ」  一瞬、えっ、と声を漏らし、流麗な少女の顔に戻ると、今度は見て分かるほどに顔を赤らめるミロカさん。よし、僕のこの支離滅裂さ加減に着いて来れていない。 「な、なにいって……」  ここだ。ここが責め時。将棋の指し手に関しては全く先見えのしない僕だが、ことこういったテンプレやり取りが通じる相手にならッ、腐るほどの手筋を持ち合わせているぞッ!! 「ひと目会ったその日からァァァァッ!! 恋の花咲くこともあるゥゥゥゥッ!!」  ミロカさんの隣で、きゃあと両手で口を覆うジャージ少女。先ほどの彼女ばりの絶叫が、小部屋の隅から隅へ反響していく。完全に頭外れている人間の世迷言だが、この希少種(ツンデレ)には、これが効くとみた。貫けぇぇぇぇっ!! 「ば、ばっかじゃないのっ!? あんたなんか、あんたなんか、ただの筋肉バカじゃないのよ!! そんな脳筋で苦し紛れの妄言こいてぇぇぇ、こ……の、痴れ者めがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」  あれ、ちょっと間違えた? 反応的には良さそうに思えたものの、顔を真っ赤にして歪めながらも、ミロカさんは竹刀を両手に保持した瞬間、閃光のお突きを鋭い踏み込みと共に、僕の喉元に撃ち込んできたわけで。  やばいんじゃね? くらいの打突衝撃に、鍛えようもないやわこい箇所を襲われ、そのまま僕の意識は途
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