▲3一飛牛(ひぎゅう)

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 白い天井だった。開けようと意識したわけじゃなかったが、乾きに乾いたまぶたが、ひび割れるように開いて、僕は自分が覚醒したことを悟る。  寝かされていたベッドは簡易的なものらしく、辺りを見回そうと首を左右にひねっただけでギシギシと音を立てた。そして首を動かした瞬間、喉元に鋭い痛みが走って、呻き声を上げつつ僕は再び仰臥する。  保健室……みたいな白が大半を占めている静謐な空間だ……八畳くらいの。消毒薬っぽい、意識がまた遠のきかけるような透明感のあるにおいが漂っている。  体がやけに軽かったので触って確認すると、やはりギプスが外されていた。いつも夜寝る時も装着していたから、逆に違和感がある。思い切って腹筋に力を込めて上半身を起き上がらせてみた。入院患者が着させられているような薄いブルーの前開きのガウンみたいなのを身に着けていることに気付く。  あれ制服は? と見渡すと、白い壁が巡る小部屋の片隅に置かれたハンガーラックにきちんと吊るされているのが見てとれた。引き出しのある背の低い物入れの上に、ギプスやらリストバンドやらも丁寧に置かれている。  気絶した僕はどうやらこの簡易的な医務室のようなところまで運ばれてきたようだ。  もしやミロカさんとか、隣にいた少女が僕の体をッ!? と、自分の体の隅々を、原始レベルの精密さを持つ嗅覚で残り香を知覚しようと試みるも、その痕跡は残念ながら収集すること叶わなかった。  その時だった。 「……気付かれて良かったです。さっきはごめんなさいでした」  可憐な声が部屋に響く。己の体を嗅ぎまわる作業に没頭していたため、部屋の扉が開かれていたことに気付かなかった。そしてそこからトレイを手にした、先ほどの黒髪ポニーテール少女が入室してきていたことにも。慌てて僕はベッドの上で居住まいを正す。  先ほどの臙脂ジャージに下駄という突拍子もない恰好から、今は、紺色のブレザーに明るめのブルーのチェックのスカート、足元は黒のハイソックスにローファーという姿に変わっていた。普通の、そして可愛らしく似合っているその出で立ちに、僕は少し安堵し、そして脈動が波打つ。
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