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「……ミロカって、色恋ごとに慣れてなくて、告白されたのだって初めてだったみたいで」
黒ポニ少女は、少し遠くを見ながら、トレイを僕に手渡してくる。いやあの世迷言は僕にも意味不明でしたし、あれ告白にカウントするのはいかがなものかと。
「……返事はちょっと待ってくださいね。考えたいって言ってたので」
どうぞ、と僕に促してくる微笑みは、これまた可憐きわまりなく。
トレイに乗っていたのは、いい感じのとろりとした卵でとじられた親子丼と吸い物、それとその隣の見慣れたシェイカーに満たされていたのは、混濁し少し泡立っている魅惑の液体、我らが主食のプロテインドリンクであったわけで。
素晴らしい。壁に掛けられていた時計の針は7時ちょっと過ぎを指している。食欲をそそる香りに、空腹感が押し寄せて来た僕はありがたく箸を取る。
いや、でも「返事」て。あれはもうあの場で収束/終息するのが、正解なんじゃないかと、この僕なんかは思ってしまうんですが。
何となく、この本日の何時間かで展開された「世界」についていけてない僕は、しばし無言で咀嚼に集中する振りをする。そうだ、聞いておきたいことがあった。
「……キミも、戦うヒト?」
緊張のあまり、カタコトになりつつある言葉で、問いかける。女子とふたりきりで話すのは久しぶりのことなので、頭蓋骨の裏側までこわばってる感じがしているが。
「はい。『オニクダキ ナヤ』、です。よろしくお願いします、鵜飼さん」
そう言いつつ、スマホの画面を僕の目の前に提示してくる。プロフィール画面だろうか、「鬼砕 薙矢」という厳めしい勇ましい名前が表示されていた。鬼を砕く……今の雰囲気からは全然だけど、先ほどの手慣れた恫喝を鑑みるに、名前負けしてない迫力はあったよな、と僕は思い返している。
ナヤさん、とそう呼ぶことにしよう。
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