▲3一飛牛(ひぎゅう)

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「さっきはあんなに怒鳴ってごめんなさい……でも私、あそこまで自分を作って持って行かないと、『戦う』って感じになれないんです。だからあんな感じになってしまって、恥ずかしい」  言いつつ、はにかむ様子は、何だろう、全然いいじゃあないか。久しく触れられていなかったそのまとも感に、本日だけで相当がんがんに殴りなめされた僕の精神は今、かなりの癒しを感じている。 「……でもここの一員になって良かったとは思っているんです。学校では正直、地味子だし、家ではずっと、出て行ったお母さんの代わりみたいな役割を演じているから。でもここでは自由な自分が出せる、そんな気がしてたりするんです」  ナヤさんの可憐ながらもどこか憂いを帯びた声と言葉は、僕の心の奥底にある汚泥のような澱みにさくりと入り、一瞬、かき混ぜたような感じがした。  似ている、のかも知れない。自分の現状に抗いたくて、いつも、もがき続けてながらも、でも如何ともしがたい現実に押しつぶされそうな自分に絶望を少し感じている自分。  僕は俯いてしまったナヤさんから視線を外し、シェイカーのフタを捻り開け一気に煽る。この風味……パイナップルか? ホエイの獣臭を微塵も感じさせぬこの酸味……こ、これどこに売ってんの? と、僕はそちらの方に気を取られてしまい、今その質問するか? というような事を訊いてしまう。
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