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「……」
残された二人の間に、地球の重力ってこんな重かったっけ、くらいの圧力が均等にのしかかってきた。僕はすかさずベッドの上で正座をし、何かに備えようとする。しばしの気の遠くなりそうな静謐感のあと、ミロカさんが描写の難しい表情のまま、口を開いた。
「……子供ヲ……巻キ込モウトシタ事……ソレハ……反省シテイル……」
感情を押し殺し過ぎて、ひと昔前の機械音声のようになったミロカさんの言葉が、これ以上ない静寂の空間に紡がれていく。ああー、まだ蒸し返すつもりだこのヒト……と、もう僕の方から平謝りに謝って、この場を収束させてやろうか、くらいの思考が大脳に到達しようとした瞬間、
「……今マデ、全テノ対局ヲ問題ナク圧勝シテイタカラ……ダカラ多少『取ラレタ』トコロデ、大勢ニ影響ハ及ボサナイ……ソウ考エテイタ時期ダッタノカモ知レナイ……君ニ諭サレタ時、ソンナ人間トシテノ感情モ抜ケ落チタママ正義ヲ気取ッテタノ? ッテ、片頬ヲ、ブン殴ラレタヨウナ気持チニナッタノ……」
うん、それ比喩じゃないけどね。知っててわざとそういう表現にしてるの? と、問いたいけど問えるわけもない。
そんな自問自問状態の僕を置いて、だんだんとミロカさんの表情が、何か込み上げてくるものを堪えているかのような、そんな切なくも美しいものに変化していく。虚空の一点を見つめ続けているその大きな瞳には、きらめく、何かが……。いや、わかってくだされば、それで僕はいいのですよ? しかし、
「でも、私をぶったことに関しては、責任っ、取ってもらうんだからねっ」
しかしあれ? 何か収束気味に思えた場に、再びのテンプレなる火種がっ……? わからないよ、この美麗少女のメンタルわからないよ。涙浮かべながら顔真っ赤、怒ってるんだか、恥ずかしがってるんだか、どちらとも判別できない表情。こいつぁまずい。まずいベクトルに、この場は傾きつつある……っ!! でも僕にそれを止める術はない……っ!!
「……責任取って、この私と付き合いなさいっ!!」
ああー出たよこれ。今日び、どのフィクションでさえお目に掛かれなくなったその物言いに、僕は現実との境目を再び見失って、真顔で硬直してしまう。
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