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「話を大ごとにしたくない……国の意向だよ、少年」
老人は別のアプリを起動させたようだ。今度はやけに画質の荒い映像が流れ始める。
「……!!」
そこに映っていたのは、学生服の男女の集団が、何か黒い同じ大きさくらいの蠢く何かと、対峙しているものだった。何かの動画か……?
でも僕の高校の制服だ。撮影している角度からは彼らの背中側しか見えないものの、学ランにセーラー、今時そんなのを採用し続けているのなんてうちしか無い。
よく見ると、学生たちと相対しているのは、何というか、五角形に手足が生えたようなシルエットをしていた。それらが何体も互いに一定の距離を取って立ち並んでいる。
映像はドローンで撮影しているようだ。多分正規のではないのだろう。妨害波にやられながらも、その度、復帰して飛行し続けている。よほどの技術なのだろうとは思うが、画面はぐわんぐわん揺れて、酔いを強力に誘う。それに耐えながら見続けていると、ふ、とその「黒い五角形」に焦点が合った。
<飛車>
確かにそう書かれていた。錦旗書体で。
五角形の将棋駒がロボットのような手足を生やしている様は、何かのキャラクターのように見える。例えば子供向け将棋入門とかで見かけるイラストのような。
イベント? だが、そんな安穏な空気は、画面からは漂っては来ない。
感じるのは、不穏で殺伐とした、「戦闘」の雰囲気だけだった。
「……奴らを我々は『二次元人』と呼称している。将棋盤の上で躍動する駒たちと同じく、列と段のみにしか、空間意義を持たないという意味でな」
老人の言っている意味はよくわからないが、その「二次元人」とやらがイベントをハシゴするゆるキャラではないということ、さらには我々人類の味方ではないということだけは分かった。
黒い金属のような質感を持った、鉄骨を組み合わせたかのような腕のひとつが、その眼前にいた女子高生の胸を貫いたからだ。
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