▲3五小角(ちょろかく)

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「モリくんって進路どうするの?」  駅までの大通りをしばし斜めに隣り合いながら歩く。二本前の電車に合わせた時間だったから、幸いなことに周囲には同じ学校の生徒の姿は見られなかった。  それでもいつもなら走り去る局面だったが、とにもかくにも僕のあまり働いてはくれない大脳が、「日常」という名の癒しを切実に望んでいた。たまにはこいつも労わってやらねばなるまい。  と、至極言い訳めいたことを考えて自分を誤魔化し騙しながら、一歩斜め前を行く、ひょろ長くて姿勢正しい後ろ姿に、少し安らぎをも感じながら口を開く。 「……進学する。地方の国立狙いだけど、他も4つは受ける。とにかくもう、親に迷惑はかけたくない」  しかし現実が急に襲い掛かってきたような、下っ腹あたりがきゅうと収縮するような感覚に、言葉はぎこちなさに絡め取られてしまっている。自分でもしょうもないことを喋っていることは分かっている。「先行き」という言葉は「不透明」の枕詞なんじゃないか、そんな事も頭をよぎる。 「……そっか~、じゃあ心機一転なわけだ。何か遠くに感じちゃうなあ」  しかし、目の前の幼馴染女子は、ぽんと気軽に言葉をかけてきてくれる。こいつはいつもそうだ。何かを達観しているような、何にも惑わされずに自分を自分で導いていける。それでいて周りにもふんわりと軽やかに接してくるというような、誰にも触れられない硬い核を、真綿で何重にもくるんだかのような、そんなメンタル。 「私は変わんないかなあ、目指すとこは相変わらずだし」  何気なく言ってるが、こいつが目指すものは、そんじょそこらの生易しいものじゃあない。それでもなお自然体で言葉を紡ぐこの幼馴染に、僕は心の中が涼風で清められるような感覚を受ける。  僕もしっかりしなきゃなあ、と、具体性にかける妄言を頭の中で呟く。よし、何か戻ってきた。昨日の諸々は、また行き当たりばったりで考えていきゃあいいや、と、その場しのぎ感はなはだしい事を考えつつ、ふと視線を上げたところに、不審な動きの人影が飛び込んでくる。やはり先行きなんて不透明であったわ。
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