▲3五小角(ちょろかく)

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「……」  茶色がかったキューティクル全開のボブは、昨日脊髄に刻み込まれた。その華奢ながら柔らかな曲線を描く体の線も。  駅前のバスロータリーの何故か2番4番の間を行ったり来たりしているぞ……現れたミロカさんは薄茶のブレザーに臙脂のチェックのリボンとスカート。遠目からでもその可愛さはごんごん僕の脳髄に突き刺さるようにアピールしてくるのだけれど、同時に不穏感もフオンフオンとうなりを上げて迫ってくるようで。  携帯を取り出して何かを調べている。そして、はっ、といきなり周囲を見渡すと、僕の姿に気付いたようだ。慌てて並んでいる人の列の死角に隠れたりしている。  一部始終を俯瞰してしまった僕は、この後起こるだろうことも薄々見当がつき始めてきていて真顔にならざるを禁じ得ない。  鉈で割られたような日常パートの唐突終焉を肌で感じながら、それでも僕は一縷の望みを賭け、呼吸を止めて存在感も消し、その隣を足音を殺して通り過ぎようと試みる。だがそれは甘すぎる見通しだった。 「と、と金じゃないのっ! ぐ偶然ね、な、何なら、途中まで一緒に行ってやってもいいんだからねっ」  ……すげえよ。縄文時代くらいのすげえ手筋だよ。教科書通りというか、古文書通りレベルのツンで側頭部を殴られた僕は、左に日常、右に異世界を感じながら、自分の精神が真っ二つに割かれていくような、そんな得も言われぬ感覚に身を委ねていることしか出来ない。
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