△3六角鷹(かくおう)

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 この場から全てを振り切って走り去る事、それは容易に出来たことかも知れなかったが、後々が恐ろしすぎるので、僕は精一杯の作り笑顔で、目の前に現れた美麗少女と相対する。  あ、あれミロカさんもこの駅使ってたんですね、いやー今の今までまったく気づきませんでしたわー、みたいな取り敢えずの間を持たそうと放たれた僕の言葉に、え、た、たまたまよっ! こんな寂れた駅! 私、家は白金なんだからねっ、と慌てて過剰な情報を含ませて返してくる少女だけれど、ああー、じゃあこれ待ち伏せされてたな……そして何故僕の最寄り駅を知ってんの? そしてもしかして先ほど確認していた携帯には、僕の居所をサーチできるGPS的なアプリが搭載されているのではないだろうか? などなど、様々な不穏な考えが去来してしまう。  その時だった。  ミロカちゃんおはよー、と、僕の左隣にいた沖島が、気さくな感じで、僕の右隣にいたミロカさんに小さく手を振りつつ挨拶をしたのである。  「日常」と「非日常」の接触。  「現実」と「異世界」の邂逅。……それらは得てして、何気ない瞬間に、起こる。 「……ミユおはよ。今日対局じゃないんだ」  ミロカさんも急激に日常へと引き戻されたかのような、通常にほど近いテンションでそれに返すけれど。  あっるぇ~、ふたりは知り合い? 自分を中心として放射線状に広がっていたと思い込んでいた人間関係が、周囲で円周を描くかのようにつながっていた時に感じるちょっとした疎外感を受けながら、僕は何とか今朝はミロカさん発の厄介事からはスルー出来た、と少しほっとしかけた。  それがいけなかった。 「おお~い、ミ~ロカく~ん、何だってまた今日はこんなところに寄ったんだ~い?」  唐突に間延びした声が掛けられる。どっちの峰に転がるか揺蕩っていた「主導権」という名の玉が、急速に「非日常」へと傾きかけていきそう、そんな僕の最近特によく当たる直感が、どんぴた嵌まってしまいそうだ。
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