△3六角鷹(かくおう)

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「……波浪田(ハロダ)『センパイ』」  抑揚の無い声で一応、その人物を呼んだのか、単に固有名詞を口に出したのかは分からないが、感情を押し殺している無感情では無く、元から感情が皆無な無感情、といった真顔でミロカさんは一瞥を寄越している。 「ああ~、ミユくんじゃな~い。今日は対局じゃあないんだねぇ~、よし! じゃあ三人で仲良く通学と洒落こもうじゃないかあ」  よく自分が嫌にならないな、と思わせるほどのひと昔前の爽やか青年感を全面に押し出している謎の青年……その白っぽい金色の長髪の「波浪田」と呼ばれたヒトは、顔はかなり整ってるし整えてるんだろうな的なわかりやすいイケメン感を醸しているものの、性欲を軽薄でくるんだかのような、何にも刺さりそうもない言葉は、ふわふわと空中に紡がれ浮かんでいるだけだけど。  僕の学校の詰襟制服を羽織っている。骨格が遠目にもよく分かりそうなほどガリガリだが、これまた結構上背はある。こんなんいたっけ。と、 「は、波浪田四段、昨日の対局はお見事でした……終盤の3六角打、あんなのAIにも指せないです……」  お、沖島っ!? 僕には見せたこともないような赤面はにかみを、軽薄長髪に向けている……っ?   日常と非日常がふんわりシェイクされていくような何とも言えない浮遊感の中、皆の衆……この混沌は更なるカオスを招き導くであろう、フェッフェッフェ、という確度の高そうな「予言」の言葉が脳裏に浮かんでは消えない僕がいる。
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