▲3七金飛車(きんびしゃ)

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「……」  何とも言えない空気になった。沖島がイケメン先輩に話しかけ、イケメン先輩がそれを軽くいなしながらミロカさんに話しかけ、ミロカさんがそれを完全に無視しながら僕に話しかけているという、通い慣れた通学路に一転、静の修羅場の構図が繰り広げられているわけで。小春日和のいい天気であるが、かえってそれが薄ら涼しく感じられてしまう。  「イド」とか来ねえかな、と、そろそろその混沌感に嫌気が差してきた僕が不謹慎な事を思い願い始めるが、しかし得てしてそのくらいのプラマイ微妙な願いであれば、僕くらいの不遇なる者の元には、案外あっさりと届け叶えられてしまうものであって。 「!!」  ピュイピュイピュイというような耳障りな音が僕の腰ポシェットのタブレットから辺りに響き渡る。まさか「イド」!? ナイス、と褒めていいのかわからないタイミングだが、とにかくこのいたたまれない雰囲気から逃れられるのであれば……っ!! 「ミロカさんっ!!」  彼女の携帯も同じ音を発していたようだ。画面を素早く確認すると、鋭い目つきに変わって頷く。周りに……「半径50m」くらいに、僕ら4人以外の人影はちらほら見受けられるが、スーツ姿か制服姿。子供はいないようで良かった。僕はミロカさんの耳元に顔を近づけると、囁く。 「……一般の人たちを巻き込んでしまうこと、それを避けることが難しいってことは、よくよく考えてみたら分かりました。ミロカさんの考えもちゃんと考えずにはたいてしまったこと、それを改めて謝ります」  これだけは言っておきたかった。何よりミロカさん達は、何の見返りも無いこの戦いに、自らの意志で身を投じているんだ。それを斟酌もせずに直情で突っ走ってしまったことは、はっきり浅はかだったと言わざるを得ない。共に……戦う。ならば、色々と考えなくてはならないことは多そうだった。 「……」  僕の言葉に、一瞬のうちにまた様々な表情を垣間見せたミロカさんだったが、最後に落ち着いたのは、ツンでもデレでも無さそうな、何か自然なものだった。あれ、とその柔らかな感じに、僕はこの状況下で全てを忘れて引き込まれそうになるが。  いかん、「対局」に対応だ。
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