▲3九鳳凰(ほうおう)

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「は、『8九』……」  僕が一歩引いて、相手角の成り込みを防ごうと着手を発声しようとした、その時だった。 「待ってモリくん!! 成らしちゃっていいから、『7六』『6五』『5三』と駆けてっ!!」  僕の二マス右隣にいた沖島……こと「ショッキングピンク盲虎(もうこ)」(だっけ)がそう鋭く制す。素っ頓狂なアニメ声なのは何かこだわりでもあんのか、とこちらを若干真顔にさせるものの、腕組みをして俯いたその姿は、熟慮している棋士そのものだ。「盲虎」という駒のモチーフからなのか、その視界は変身後なぜか閉ざされているようだけど、「目隠し将棋」……お手の物だったはずだ。 それより何より、盤上でこいつが言う事だったら、聞くしかないっ!! 「おおおおおっ、『7六獅子』『6五獅子』『5三獅子』だぁっ!!」  言われるがままの指し手を唱和するだけで、僕の体は何かに操られるかのように盤上を力強く躍動していくのであった。「5三」にいた歩を苦も無く跳ね飛ばすと、相手玉とひとマス挟んで向かい合う形となる。チェックメイト……いやもう「詰み」だ。 <『5二金左』『4二金直』『6二銀』>  慌てたかのような動きで玉の前に双金と右銀までが飛び出し、ボディガードのように体を張って遮ろうとしてくる。流石「彫埋」……指し手だけは早いな。だが、「一間龍(いっけんりゅう)」は受け無しだが、「一間獅子(いっけんじし)」はなあ…… 「……既に玉を召し取っているんだよ」  キメの台詞を放った僕の体は、二マス先の相手玉の居た「5一」の所まで瞬時に突進移動している。振り抜いた腕に、間に入った左金と、そして総大将、玉を串刺しに貫いたまま。
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