△4一奔王(ほんおう)

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「そうそう、モリくんの性格とか手筋とかは、ほとんど把握してるんだ。ちっちゃい時から、ずっと見続けてきたから」  邪気なく続けられた沖島の言葉は、ミロカさんの精神的な何かを、見て分かるほどに揺さぶったようであり。 「……モリくん、小四でサッカーの地区選抜に選ばれたんだよ? トップ下で前線に的確に繋いで、銀みたいに攻めて金みたいに守って、3得点に絡む正に獅子奮迅の活躍! 決勝での躍動する姿、今でも胸に残ってる……」  サッカーは将棋との相似性が認められるということで(それほどか?)、唯一お上が推奨しているスポーツであり、僕も小学一年の頃から地元のクラブに入ってそこそこ活躍していた。楽しんでやっていたのは事実だ。だがやはり「文武両道」という名の厳しい制約があって、棋力が圧倒的に及ばなかった僕は、中学に上がる前に退会となった。それきりサッカーには見向きもしていない。  いや、そんな哀しいバックボーンは今いらないか。それよりも遠い目をしだした沖島のこの天然色の覇気のようなものが、更なる波濤を呼び寄せそうな、そんな嫌な予感が僕の脊髄を駆けのぼってきている。 「要するに、ミユはこのと金に対して、どのような感情を持っている?」  硬い構文口調のまま、ミロカさんはそう藪蛇というか、蛇自身が棒と化して藪から突き出るみたいな、そんな質問を発するけど。流れとしては非常にまずい気がする。そして、 「……片思いなの」  恥じらいながらの威力高い言葉はしかし、それ本人を目の前にして言う?  「……ほう」  ミロカさんによる、その二文字に全感情を押し込めてその圧でブラックホールが発生してしまいそうな時空間が展開されていくのを肌で感じ取った僕は、その真っただ中、さらに言うなら中心核に自分が存在していることを知覚し始めているが、だからと言ってどうすることも出来ない。
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