▲4二鐵将(てつしょう)

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「ミユ……非常に……すまないことだが、昨日……と金は私に愛を告白した」  何でミロカさんの口調はのっぴきならない場になればなるほど、定まらなくなるのだろう……と、当事者から傍観者へと華麗にシフトしてこの場から離脱出来ないかと無駄なあがきを試みる僕であったが、がっつり世界の中心に僕はいた。  あのあれを「愛の告白」と受け止められていたことを再確認し、何とか誤魔化し逸らすことは出来ないもんかと、大脳演算能力を極限まで高めて最適解を求めるものの、妥協的な案すら出て来ない。そして、 「愛……告白……」  言葉の意味を考えているかのような沖島(オキシマ)の顔は、何というか表情筋が全て弛緩したかのような恐ろしい様相に変容しているわけで。時間にして約二秒、逡巡したもののそこは持ち前の超絶手筋読みで、ひとつの答えを出したようだ。穏やかな微笑を伴った表情が、その起伏に乏しい顔貌に戻って来る。 「……それは何かの間違い、ねっ?」  爽やかにそう言い切る沖島。や、やりやがった、これが天然色……明らかな確信犯的切り返し……詰めろ逃れの詰めろを秒読みに追われる中やってのけた、いつかのこいつの逆転局を思い返させるような鮮やかな手筋……いや鮮やかでどうする。 「『何かの』? 『間違い』? だと?」  徐々に周りの空気が、あれまた「イド」じゃね? と思わせるほどの緊迫感と重力を孕んでいく。自販機すら無い、何も変哲もない住宅街を走る道が、がらりとその様相を変えたかのように思えた。そして何の変哲もないことが、幸せだったのだとも思った。  僕を間に挟んで相対し睨み合うミロカさんと沖島。何で……何でこんなことになってしまったんだッ……!!
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