▲4二鐵将(てつしょう)

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「ちょうどいい。と金、この場で答えを今いちど、突きつけてやれ。そうすればこの将棋バカにも一手詰めのように瞬時に正解がわかることだろう」  もはや隠しようもない敵意がにじみ出てきているよ。眼力で殺せそうなほどの形相でミロカさんはそう絞り出すように言うけど。対する沖島は不気味なほどに凪いだ微笑を浮かべているだけだ。それはそれで恐ろしさはフィフティフィフティであるものの。 「モリくんモリくん? 大変だったね、こんなナチュラルメンヘラにつけこまれて? でももういいんだよ、本当の自分を出して? そうすれば必ず楽になれる、は、ず」  恐えよ。どちらかというとナチュラルなのはお前の方だよ。場は完全に煮詰まった。両王手、しかもどうみても詰んでる。誰か……誰か僕に、この場を乗り切る力をくれッ! 「……」  万策尽き、天を仰ごうとした僕の視界に、今まで完全に存在と気配を殺していた波浪田(ハロダ)先輩の、吹っ切れたようなにこやかな表情が差し込むようにねじり入ってくる。高三のミロカさんから「先輩」と呼ばれる先輩って、いったい本当はいくつなんだろう……という詮無い思いを吹き飛ばすかのように、その口は満を持して開かれ、力強くひとつの解を示すのであった。  ……両王手、逃げるべからず、だよぉぉぉだよぉぉぉだよぉぉぉ。  諭されたかのような、そのエコーがかった分、より恐ろしく軽薄に聞こえる言葉に、だがしかし、僕は途轍もない勇気をもらった気がした。  僕は「獅子」。例え両王手をかけられようと、そこから覆すことの出来る常軌逸脱、超越した駒なんだッ……!! 「詰み逃れの詰み」、見せてやる。
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