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シェークスピア劇
荒木田「まあ、それはどうも。何かあなたがここにいらっしゃったわけが分かるような気もしますが……そういったことは先生の方におっしゃってください。いま問診表を先生にお渡しして来ますからね」
林「あ、そのまま!動かないで!」
荒木田「どうなさいました?」
林「その組んだ脚を解こうとする、あなたの今のそのポーズ。ひたすら心が癒されます。しばしフリーズ……を、お願いできないでしょうか」
荒木田「んまあ、なんということを。そういったことは今日日セクハラですよ。私をバーのカウンターにいるホステスと間違わないでくださいね」
林「間違えてません!癒しの、救いの女神と思うばかりです。あるいはこうも云わせてください。‘ああ、不思議なこと!ここにはなんて素敵な人がいるんでしょう。人間はなんて美しいんでしょう。素晴らしい新世界。こんな人が住んでいるなんて!’と」
荒木田「シェークスピアの劇‘あらし’の中のミランダのセリフですね。教養がおありなのね」
林「いや、ありません。しかし今のセリフは私に於いては次のセリフの後に出たものなのです。‘人間は泣きながらこの世に生まれてくる。阿呆ばかりの世に生まれたことを悲しんでな’の後に。あなたこそは愚昧な世の光です!邂逅した新生のしるしです!」
荒木田「まあまあ、どうもどうも。お褒めにあずかりまして。とにかく問診表を先生に渡して来ますから、もう少し、そちらのソファの方でお待ちください」
林「ま、待ってください。あの…あつかましい限りですが、一度だけ握手をしていただけませんか?」
荒木田「握手?」
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