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天国へ上る階段
―ラジオドラマ―
〔登場人物〕
林満(44):主人公、自殺願望者
錐最戸(キリモト・60):精神科医(Drスイサイド)故丹波哲郎的キャラクター
荒木田光(アラキダヒカル・36):看護婦(兼受付係)、美人
男A(55):自殺者未遂者
(※上記以外のキャストについては第一章以降においてその都度記す)
階段を上って行く人の足音、力なく、けだるげな感じ。
林(M・モノローグ)『ここは……いったいどこだろう。あたり一面白い雲のような、霧のようなもので覆われている。あやめも知らぬその霧の中で、マンション側壁にあるような鉄骨階段だけが……ずっと上に続いているんだ……どういうわけか俺は、力なくただそこを上っている……階段の踊り場二、三段ほどはなんとか見えるが、その先は上も下も、まったく雲の中だ。これははたして……俗に云う天国に上る階段だろうか?俺は死んでしまったのだろうか?……しかしもしそうだったら……どちらかと云えば俺は、天国なんぞへ行くよりは、たとえ地獄であってもむしろ下に降りたいのだが……しかしまるで誰かに導かれるように、勝手に足が上って行ってしまうんだ。これはいったい誰の……なんの仕業だろうか……ん?!上に誰か、いる!』
上方でドアの開く音、続いて階段の踊り場に出る人の足音がする。
男A(off・離れた所から)「いやあ、ありがとうございました。おかげ様で元気が出ました。先生によろしく」
荒木田(off)「はい、どうも。お大事にね」
男A(off)「はい。本当にありがとうございます。必ずまたおうかがいします。いやあ、先生の診察もありがったかったけど、あなたのような美人の看護婦さんのお顔を拝めるのが、これがまた嬉しくって(笑い)」
荒木田(off)「まあ。はいはい、またいらっしゃればお好きなだけ……あっ、足もと!あなた、何回もお辞儀をするのはいいけれど、うしろ気をつけないと階段から転げ落ちますよ。本当に(笑い)」
男A(off)「いやあ、面目ない(笑い)じゃ、また。失礼します」
FI(フェードイン・だんだんと近づいてくる)で階段を降りて来る靴音。一段上の踊り場で林に気づき男A止まる。
男A「あ、どうも……ど、どうぞお通りください」
林「あ……いえ、あなたこそどうぞ」
男A「(軽笑)そうですか。じゃあ」
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