16章 君のために

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・ 空は快晴── 食べ歩きにはうってつけ。 人混みでサングラスはしていてもすれ違う度に人に振り返られる。 遠巻きに聖夜だと囁かれ、社長は俺の隣を歩いていた晶さんの腕を引っ張った。 「人混みのみでの扱いだ、晶のために我慢しろ」 「……っ…」 つい、チッと舌が鳴る。 晶さんは俺と一緒に外を歩くのを楽しみにしてたのになんだよっ…髭の奴! 距離を置いて前を歩く社長とその彼女、そして晶さんは後ろから着いてくる俺を気にしてチラチラと振り返る。 「この扱いっ──…俺、めっちゃ寂しいじゃん!」 三泊四日の北海道旅行初日、千歳空港についてすぐ社長が借りたレンタカーに乗り込むと俺はそう不貞腐れて叫んだ。 「穴場に行けば人も少ない上に旨いもの食える。いい加減、機嫌直せ!」 「もう、直ってる…」 バックミラーから覗く社長からそっぽを向いて、外の景色を眺める俺の手に、隣に座った晶さんの指先が絡んでいた。 前の座席から見えない位置で手を握り少しずつ二人の距離を近付ける。 そんなさりげない仕草に胸が疼いた。 社長の長年の連れ合いの彼女、真理さんとチンピラ髭を前にしてまるで家族旅行に来た雰囲気になってしまったけどしょうがない… 晶さんとの初デート。市場食堂で生け簀を見て回る晶さんは凄く楽しそうだ。 「うわぁ…あれ捌いて食べたい!」 喜ぶ笑顔は無邪気で可愛いけど口にする言葉は残酷だった。
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