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生け簀から揚げたばかりの透明なイカを刺身で食べる。
ちょっと早めの昼食は色んな所へ足を向けての摘まみ食い的な食べ歩きだ。
魚市場の店先で売られる絶品魚介を口にしていると社長の携帯が鳴り響いた。
「おう、どうした?舞花はなんとかやってるか?」
尋ねた内容からして相手は楠木さんなのだろう。
炭で炙られた蟹の足を晶さんと半分こして頬張りながら俺は社長に目を向けた。
「なにっ!?」
小さな注目を集める社長の表情か少し険しくなる。
何事かと見ていると社長は驚く言葉を次に発した。
「マリオが舞花にセクハラ!?」
思わず社長の声に蟹を食う手が止まる。電話口で何やら響いてくる楠木さんの声に社長は唸りながら難しい顔を浮かべ始めた。
切れた電話を見つめて社長はポケットにしまう。
「……っ!?…晶っ、腹をどうした!? なんかあたったかっ」
へっ!?──
突然、晶さんを庇うように抱き込んだ社長に驚き飛び退いた。
「なっ!大丈夫か晶っ!」
「えっ!?── ああっ…い、痛いっ…かもっ…」
「うそ、マジいきなりっ!?」
踞り苦しそうに声を絞り出す晶さんに俺も慌てて顔を覗き込む。
社長はそれを遮るようにして俺の前を塞いだ。
「聖夜、ちょっと真理のお供を頼むっ! 晶を病院連れてくからっ!」
「えっ、病院なら俺も一緒にっ──」
中腰の晶さんに肩を貸してタクシー乗り場へ走りだした社長。それを追い掛けようとした俺を真理さんが引き止める。
「聖夜くんはあたしのお供よ」
「ちょっ、なにそれっ…」
うそっ…晶さん!?
立ち去るタクシーは猛スピードで俺の前から消えていった……。
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