16章 君のために

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「ちゅわーっす!」 「──…っ!…あれ~、ケンゾーさんお久だね?いつ帰って来た?」 事務所に行くとソファで寛いでいたおむすび頭の後頭部が俺を振り返る。 「一昨日、こっち(日本)に着いたんだよ!」 「うわ~…なんか出世したね?白おにぎりから焼きおにぎりになってんじゃん…何その焼け方っ!?」 「……相変わらず言うなお前…」 デブキャラが売りのお笑いタレントのケンゾーさん。番組のロケでパプアニューギニアのジャングルへ出向き、半年ほどサバイバル生活を送っていたらしい。 「思ったほど痩せてないね?」 「ワニがけっこう旨くてな、バカバカ簡単に獲れるんだよ!」 「なる…」 「俺、キャバと抜き屋があればジャングルに住んでもいいな~!」 「……まず無いからっ」 ツッコミながら笑い合う。サバイバル生活も慣れてしまえば案外快適だったらしい… 事務所に着いた早々、馬鹿話で盛り上がっていると楠木さんが電話で話をしながら登場した。 「すみません!せっかく頂いた話で申し訳ないんですがどうしても彼女のスケジュールが空かなくてっ」 事務所に入って来た途端、楠木さんは俺を見てハッとしたように携帯の受話口に手を添えて声を潜めた。
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