16章 君のために

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・ 10月も半ばを過ぎて、再来月で平安ドラマの撮影もいよいよクランクアップだ。 気持ち的に余裕の出来た俺は何やら話し込む社長と楠木さんを尻目にソファで鼻唄を奏でていた。 「ご機嫌だな、ウチのトップスターは」 「そう、俺は超ご機嫌」 俺は自分のスケジュール帳を見ながら聞いてきたケンゾーさんに答えた。 「来週、彼女と温泉にいく……すんげー楽しみ」 この間、仲直りエッチしながら決めた二人のデートの行き先。 そう答えた俺の背中に社長と楠木さんの視線が刺さっていた。 「来週!?──晶とか?」 「うん、何?文句ある?」 社長に言った。 「ダメだ、許さんっ!!」 「なにそれっ!?一体何の権限!?」 「……晶の叔父としてだっ!」 いきなり叔父の権限かよっ!? 晶さんの身内として言われると何故か歯向かえない。 「そうか、予定ってのはそれか…」 茫然と立ち竦む俺を無視して社長は顎に手を当て呟いた。 「俺は行くからなっ」 「まあ待て、社長と叔父としての俺の権限だ。取り合えずその予定はキャンセルしろ」 「──…っ…」 何かを考えながら冷静に引き止める社長に俺は開いた口が塞がらなかった。
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