うかうかしていられないから

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「調子のって。そっちこそこういうの、弱いクセに」 「ぁぅ……」  なんて。強がっているけれど、恭太だっていっぱいっぱい、精一杯強がってかっこつけて、それでも顔には緊張と羞恥が隠しきれずに出ていた。 「あの、チェス──」 「もう、チェックメイトじゃね?」  恭太の顔が、段々と近づく。 「私、あのその、初めてで」 「実は俺も」  背後が床の真帆には逃げ場がなく。 「ま、まだ、心の準備とか……」 「仕掛けてきたの、そっちだろ」  額が触れ。  鼻が触れ。  ほんの少し、僅かに、数秒だけ、唇が触れ合う。 「「………………」」  それが離れた後、また暫く見つめ合う。お互い初めての経験。どうすべきなのか、何を言えばいいのか言うべきなのか、わからない。  その沈黙に堪え兼ねて、恭太が口を開く。 「キス、初めて。」 「……私も。」 「シーフード味。」 「……しょうゆ味。」 「……ぷっ」 「……ふっ」  張り詰めた緊張の糸がプツリと切れ、支えていた物が雪崩れるように腹を抱えて笑う。床に転がって、涙が出るまで笑う。 「はー、ムードも何も、台無しだな!」 「辛島君が台無しにしたんだよ!」  恭太は起き上がり、真帆が起き上がるのを待つ。そうして目線が合い。 「真帆ちゃん、俺と、付き合ってくれ」  もう、恥ずかしくない。お互いのカップラーメンの風味を分け合った仲だ。  目を逸らさず。まっすぐに瞳を見つめて。 「長くても一年で未亡人確定だけど、それでも良ければ。」  真帆も、まっすぐ恭太の瞳だけを見る。 「うん!こちらこそ宜しく!死ぬまで付きまとうよ!」  即答だった。 「じゃぁ、早速なんだけどさ。」 「うん?」  恋人としての、第一歩。 「真帆ちゃんも俺の事、名前で呼んでよ」
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