残り時間

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 人生というのは、結構運次第なもので、運というものは随分命と密接に関わっていて、命というものは案外儚い。  例えば日本全国で平均をとっても割と運の悪い方だったらしい彼は、その不運に人生を諦めた。  未来を捨ててしまった。否、厳密には少し違う。  彼は、自ら未来を捨てた。  失う前に、いっそ捨ててしまえ、と。  青一つない曇り空の中、いつも通りの平常授業。昔々どっかのおっさんが何をしたとか、そんでもっていつ死んだ、とか。  そんな退屈な話をせっせこ紙に書き写したり、夜中に友人と電話する為の睡眠時間を稼いでいたり。ごくごく普通の教室の中ただ一人、辛島恭太は圧倒的に異質だった。  そこは、黒板を一ミリでも見ている者がいたら奇跡と言えるような底辺校ではない。寧ろ進学校と呼ばれる学校だ。そんな比較的静かな授業の中、彼は一人シャー芯のケースを宛らトランプタワーのように積み上げていた。  タワーは1メートルに達しようという所で音を立てて豪快に崩れる。 「辛島ぁ……授業中だから、もう少し静かにしてくれないか……。」  ヘアアイロンをかけたようなサラサラのミディアム。眼鏡の奥に見える切れ長の瞳と鼻の高い端正な顔立ちは典型的な優等生、というより勉強スポーツ基本的に何でもこなす創作上の生徒会長のような風貌。  そんな彼はくしゃっと笑い、後頭部を掻きながらヘラヘラと。 「あ、さーせぇん。いやね、静かにやるつもりだったんですよ!崩れなければなぁ?」  クラスメイトも合わせてヘラヘラ笑うが、その表情はどこか固かった。
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