4人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、朝のホームルームも始まる前。
「か、辛島君っ」
元々、目立つキャラではない。教室の、しかも知らないクラスの視線が自分に集まる事なんて普段全くない。それが決して悪意のない、どころか他意すらない視線でも、身を引いてしまう。しかし、ここでいそいそと引いてはいられなかった。
もたもたしていたら、彼はいなくなってしまうのだから。
「ん、どした?」
「ちょっと、ちょと、あの、ちょと。」
鞄も持ったままの真帆に手招きされ、廊下に出る。表に立ち、人に注目されるイメージのない彼女がここまでするとは、昨日の話はそこまで衝撃的だったのかと。自分の存在がそんなにも彼女の中でデカかったのかと。場違いにも自分に感心する。
「辛島君は、あの、なんというか……先がないから、今やりたいことしてるんだよね。」
「先がないとは言ってくれるねー」
「あっ……ごめんなさい……」
「冗談冗談。ま、そういう感じだよ。そんで?」
酷い言い方をしてしまった後悔と、こみ上げてくる涙と。表しようのない悲しみと、頭の中でぐちゃぐちゃになった言いたい事と。その他諸々エトセトラ。
全てを唾と一緒に飲み込む。
「私も、隣にいていいですか?一緒について行っても、いい?」
「……ん?一緒にって、心中でもするの?」
「えと、違くて。一緒に好き勝手して、いいですか、って。」
恭太は目を丸くする。彼女なりに思い詰めて大袈裟な別れの挨拶か、はたまた改めてよろしくみたいな話かと思っていた。
思った以上に大袈裟で、とんでもない。
「……いやいや、俺がこうしてるのはほら、先がないからだよ?真帆ちゃんはあるじゃん、先。」
「私にはあるけど、『辛島君のいる未来』は、私にもないよ。」
「……なんでそこまで。俺達、そんな仲だったっけ。」
「………」
ただ、共に生徒会所属というだけの関係。会の仕事の時には言葉も交わしたし、仲が悪かったとは思わないが、それだけの関係。
恭太にとっては、それだけだった。
真帆は俯いて唇を噛むが、すぐに決心して顔を上げる。
「そんな仲、私は、そんな仲になりたかったの!」
最初のコメントを投稿しよう!