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「人に近いこの辺にはいませんよ。熊は本来臆病な生き物です。大きな音や突然の光を嫌いますから、人に近い場所には余程の事がない限りは近づかないんです。森には十分な恵がありますから、人里まではいきませんよ」
安心させるために言ったのだろうが、これからどんどん奥へと入っていく。そうなると遭遇する可能性は高くなるわけだ。
そうならない事をただ願うばかりだ。
その夜、リスクス達の誘いで早いうちに隠れ家にこもった。そこは元々リスクス達が使っていた隠れ家の一つで、簡易ではあるが家具のようなものがある。
天然の洞窟を補強しつつ、空気穴などを完備し、入口には木戸がついている。入ってすぐはリビングのようで広く作られ、焚き火をしても煙がこもらないように空気穴がある。
彼らは元からここで一晩明かすつもりだったようで、多少の食料を備えてくれていた。
「快適だー」
土の上に獣の皮を敷いたラグの上で、ゴロンとハリーが寝転がる。確かにわりと快適だ。酷く冷え込むのかと思っていたが、そうでもない。
コンラッドが用意されていた肉や野菜でスープを作り、そこにパンをつけながら腹を満たす。運んでいる食料は有事の時に使うようにと温存した。
「ここの食料を多少ソリに乗せて運ぶ。狼に引いてもらうから心配すんな」
「そんな事までしてもらって、なんだか申し訳ないね」
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