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ここでこいつを追い返さなければ、お母さんが危ない。本気でそう感じた。
おばさんは困ったような曖昧な笑顔を浮かべたまま、少し腰をかがめて祐樹の視線に目
の高さを合わせた。
「私はね──」
記憶はここで突然に途切れる。そこから先は断ち切られたかのように空白なのだった。
──私はね、死神なのよ。
そんなふうに名乗ったのだろうか。それとも、別のことを告げたのだろうか。
気がつくと祐樹はどうやって帰ったのか家にいて、床で寝ているところを父に揺り起こ
された。
「こんなところで寝てると、風邪ひくぞ」
常日頃は無口な父が「よっぽど疲れてるんだな」とぼそりと呟いたことをよく覚えてい
る。
そしてその二日後に、母の容態が急に悪化した。それきり、母が再び目を開くことはな
かった。
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