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室長は時に頷き、時に鋭く目を光らせながら、常にメモを取り続けていた。
性格は自己分析するに、どちらかと言えば引っ込み思案。積極的に人と話すことは苦手で友達は少ないほうだ。これまでの人生、そんな貧相なスペックでどうにか生きてきたと祐樹は考える。しかし、業務内容を深く知れば知るほど不安要素が増してきた。
「これって、営業マンの仕事みたいですよね」
時雨沢にそう漏らすと、彼はふんと鼻で笑った。
「営業でもありマネージャーでもある。多様なコミュニケーション能力が求められる。成田くんに向いているかと言われれば、すぐには肯定できないな」
「……そんなのわかってます」
祐樹は不貞腐れた。自虐的に公表するのと、人から指摘されるのとではショックの度合
いが違う。仏頂面をしている祐樹を、時雨沢はおかしそうに眺めた後、目を眇めて祐樹を
見た。
「まあ、俺にこの仕事が向いているのは確かだが」
そう言って、時雨沢が息を吸い込む。
──自分で言いますか。
憎まれ口を叩こうとした祐樹に、時雨沢が続けた。
「案外、不器用な奴がとてつもない奇跡を起こす」
「何ですか、それ……」
言い返すと、時雨沢は美しい顔を邪悪に歪ませて笑った。
──何となく面白くない。でも今は言い返す言葉が見つからない。
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