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 何故、厄介事に首を突っ込まない祐樹が、死神スカウトの仕事を始めることにしたのか。 自分でもうまく説明できなかった。  ただ、偶然が重なり合ったことに必然を感じた。 ──この仕事を続けることで、何かが変わるかもしれない。 「何か」とは曖昧で漠然としたもの。そんな不確かなものに縋るように、祐樹は迂闊にも 契約書にサインしてしまったのだ。  契約書を受け取り、室長は祐樹がサインをした箇所を確かると「はい、結構です」と穏やかに頷いて顔を上げた。 「成田くん。さっき、いろいろ話を聞かせてもらっていた時に、君は自分の性格を消極的で、人と接することが苦手だと話していたよね?」  突然先ほどの会話が蒸し返され、祐樹は戸惑った。室長の質問の意味を先回りして考えようとした。だが、時間が間に合わなかった。 「……はい。そう答えたと、思います」 「自分のことは自分がいちばん理解できていないのだと、君を見ているとよくわかりますよ」  室長は笑顔だったが、笑顔の奥の目が鋭く光った。 「どういう意味ですか?」 「君は、善に対してとても純粋な感性を持っている。だけどとても頑固だ」  室長の言葉は通り一遍の性格を指しているわけではなさそうだった。懸命に言葉の意味を追いかけるうち、室長は言葉を新たに続けてしまった。     
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