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つけた時雨沢がいた。
「この時間ならまだ並ばなくてもよさそうだな。何食う? 麺類? ごはんもの? 俺は
そうだなー」
時雨沢漣。
恐らくしかめているだろう祐樹の表情などおかまいなしに、時雨沢はまくし立てる。
時雨沢は悪人ではないが、祐樹にはたやすく心を許せない理由がある。ついでに気やす
い口を利くこともできない。
時雨沢は好人物で、ヤツの周りには自然と人が集まってくる。みんなが抗えずに時雨沢
に引き寄せられる魅力は祐樹にもわからぬでもなかった。気さくな性格に加え、見た目も
いいのだから文句のつけようがない。
涼しげな印象のある整った顔で笑えば、清潔感の塊である。それに比べて祐樹は地味で
朴訥、不器用だが性格は悪くない程度の可もなく不可もない人間だと自己評価していた。
一緒に並んでいるだけで、劣等感を煽られる。
しかし時雨沢はニコニコしながらいつの間にかみんなの輪を抜け出し、祐樹を密かに監
視していた。「監視」などと言うと物騒だが、傍から見ればにこやかに祐樹の世話を焼いて
いる体に見えるようだ。
文字通り、祐樹は監視されているのだが。
「……最近さあ、成田の成績芳しくないよね」
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