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駅前まで来てしまったが、乳幼児を連れた母親や、お年寄りが街を行きかう様子をぼんやりと眺めていると自分が何をしているのかわからなくなった。のんびりした光景の中、暇そうな祐樹はそれなりに溶け込んでいるかもしれない。
駅のバスターミナルを一望できる場所に腰を下ろし、駅前の昼間の風景を見るともなく見ていた。
「それにしても平和な光景だな」
誰に言うでもなく、独りごちる。こんなに人が行きかっているのに、孤独を感じた。祐樹以外のみんなが、目的に向かって歩いているように見える。祐樹だけが、無意味に生きているかのように。
「……八十八」
そのとき、祐樹の耳にふいに数字が聞こえてきた。
「六十七。七十六……三十九」
最後の数字は少しためらいがちに聞こえた。祐樹は思わず隣を見る。
自分と同じように、手持無沙汰な様子の男子が座り込んでぶつぶつ数字を呟いていた。
襟足を刈り上げてサイドは残した個性的な髪は、光の角度によって銀色に見えた。
目尻が釣りあがっていて、小さな顔。細い手足。全体的に幼い印象がある。
──何だこいつ、中学生か?
祐樹は知らず知らず、無遠慮なほど少年を観察してしまっていた。少年は、祐樹に凝視されていたことに気付いていなかったのだろう。大きく目を見開いた。
「……」
何かを言いかけて口をぱくぱくさせたかと思うと、ぴたりと閉ざした。
正面から見ると少年は、際立って綺麗な顔をしていた。
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