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耳元で囁かれ、祐樹はこいつの本性を大声でみんなに知らせたくなる。みんな騙される
な。こいつはとんだ──。曲者だ。
時雨沢と祐樹は、この大学で同級生のように振舞っているが、祐樹だけが真の大学生で
時雨沢は祐樹の上司だった。
「このままでいくと、エリア変更も考えなくちゃいけないなぁ」
言いながら時雨沢は、ニヤリと邪悪な笑顔を浮かべた。造作が綺麗な顔だけに、余計に
凄味がある。
「まさか、仕事に慣れてきて慢心しているんじゃないだろうねえ、成田くん」
「……滅相もございません」
祐樹はへどもどと答えた。時雨沢の、つるりとした完璧な笑顔が怖い。
「成田には、楽なエリアを任せているんだよ? 自分の通ってる大学周辺なんて、室長も
甘すぎるんだよなあ」
時雨沢、いや時雨沢主任の説教は止まらない。
「潜在死神が多いのは十代後半から二十代前半とされている。まだ自分の能力に気付いて
いない金の卵がたくさん埋もれているはずだ」
そう言って時雨沢は、ピンと人差し指を立てた。
「つまり、ここ。共学の大学なんてのは打ってつけの場所なんだ。わかるね? 成田くん」
「はい……」
祐樹は返す言葉もなく頷く。「成田くん」と丁寧に呼ぶのは、時雨沢主任が怒っている証
拠だった。
「ということは、君はとてつもなく無能……」
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