11人が本棚に入れています
本棚に追加
──やめてくれ、皆まで言わなくても承知している。
「時雨沢くーん!」
とどめを刺される前に、女子の甲高い声が助けてくれた。時雨沢のやや後方で、同じ学
部の女子たち数人が嬉しそうに手を振っている。どの子も時雨沢びいきの女子たちだった。
「おー、おはよ」
にこやかに手を振り返す直前に、時雨沢が小さく舌打ちするのを祐樹は聞き逃さなかっ
た。みんなは騙されている。この如才ない男の笑顔に。
「……行くぞ。とにかく、エリア変えられたくなかったらもっと頑張れよ?」
小さいが押し殺した声で時雨沢はつぶやいた。祐樹にかける言葉は語尾がやや荒かった
し、肩に乗せられた手がやたらに重かった。
最初のコメントを投稿しよう!