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「時と場合による」
憮然とした顔で時雨沢は答えた。祐樹に馬鹿にされたと思ったのかもしれない。実際祐
樹はちょっと馬鹿にしていた。
「俺が言いたいのは、懐柔アイテムの内容じゃなくて、この通り国を挙げて死神獲得のた
めに尽力しているってわけだ」
確かに、チケットの類はすべて大手企業のものだった。株主優待などとも違った特殊な
チケットが秘密裏に発行されているということは、この世界の一部では死神の存在は知ら
れており、対策がすでに講じられているということだ。
その証拠に死神の報酬はかなりの高額だ。仕事の厳しさを我慢して、報酬のために死神を続ける人もいるにはいるが、リタイア者が続出しているのには業務内容に問題があるのだろう。
──スカウト者の就業状況については教えてもらえなかったけど。
祐樹は不安を感じたが、自身の疑問に気付いていないふりをした。
「そういうわけだから、君も死神を見分けられる能力に大いに誇りを持って、しっかり働
いてくれ」
「はあ……はい」
「最後まで生返事だな。君は」
時雨沢は目を吊り上げた。そこで祐樹はようやく、彼が非常な美男であることに気付い
た。
母の死ぬ間際に現れた死神を、祐樹はよく覚えている。
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