【どうしてと思うのは簡単だけれど】

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【どうしてと思うのは簡単だけれど】 (嘘でしょ?)  来月のシフト表ということで、来月まであと二日しかないという間際になって一応はもらえた勤務表にざっと目を通しただけで、溝口香苗はすぐにそれしか思えなかった。  連勤続きじゃん、とか、早番多いなぁ、閉め当番が8回もある、とかいう具体的な文句なんかよりももっと彼女を苛つかせて、苦しめるもの、それは。 (なんであのおばあちゃんと一緒の勤務日がこんなにあるの!?)  渡される勤務表は個人の勤務日だけではなく、このカルチャースクールで働いているスタッフ全員の勤務日が記載された形式のものである。どうしても都合の悪い時など、誰かと交替出来るようにとの計らいのつもりらしいが。  けれどもそれゆえに、月に22日しか勤務に入れないパート職員である香苗にとって、この勤務表にはある種の命運がかかっていた。それはいかに毎日効率よく仕事出来るかどうか、と言った。  20代後半にこのスクールに転職してきた香苗としては、そもそもが正社員募集だったから門扉を潜ったというのに、面接の間になんだか話はパート扱いで採用となっていたことも腑に落ちていないにも関わらず、それでもこの職場での仕事を受けようと思ったのには他に目欲しい勤め先がなかったせいもある、けれども基本は真面目な性格である香苗は、パートという身分に甘んじつつも、仕事振りに関しては決して手を抜かず、店舗のルールを守り、カルチャースクールに通ってくださる生徒さんには敬意を、講師の方々には尊敬の念を持って接していたが、そんな香苗でもどうしても、許しがたいというか、納得のいかない人物が居た。  同じくパートで働いている、今年六十歳になるはずの年季の入った先輩パートについてだけは。
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