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自分の祖母とそう変わらない年齢であるにも関わらず、今でも仕事をしている姿は立派だと思う。実際、彼女のここでの勤務歴の長さは、このカルチャーに通っているそれ相応の年季の入った方々と同じ時代を歩んできたからだろう、いわゆる生徒さん達と仲良く談笑している姿を見ると、とてもパートの一人とは思えないくらい、あっち側に馴染んでいると言える、 むしろどうせならあなたもそっち側の人間になっちゃえばいいのに、と香苗が思うのにも、それ相応の理由がある。
何せ彼女───瀬川愛子さんは、基本、一時間半~二時間の習い事が終わる順に次の新しい講習のためのスタジオセッティングをし直さなければいけない、それはお歌の教室からコーラスグループへの引き継ぎなら特段、大掛かりな仕事はないものの、習字の教室から柔道講座への変更だった場合、習字のために並べた椅子やテーブルを撤去した上で、柔道用の畳を運び、防音シートを敷いた上に一枚ずつ並べなければならない、そういった労働となると、腰が弱いおばあちゃん瀬川さんは役に立たない、というより下手なことして欲しくないという全員一致の見解から、そういう時は瀬川さんに受け付け窓口に居てもらうようにして、動けるスタッフ総動員で準備に当たっているにも関わらず、その日、余分にかかったお稽古代を支払っていくわという生徒さんや、来期の月謝を払いたいという生徒さん、果てはその日、別途かかった経費の講師への還元手続きといったお金にまつわる事も一つの習い事が終わる毎に発生するのが常で、ゆえに窓口一人というわけにもいかず数人はそこに居るものの、生徒さんと距離が近いからかお喋るの手を止めてしまう姿や、あげくお喋りに夢中になったからかどうかはわからないが、彼女を窓口において清算業務に携わらせると、まずその日の入出金が合わなかったり、講師から「礼金の金額が違う」と言った問題やクレームが発生するのもよくあることで。
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