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ましてや窓口に立った人間には、手が空き次第、ポットに麦茶を用意しておくといった、些細なことかもしれないが大事な業務もあり、それがどれだけ大事かと言えば、次の教室が始まったタイミングで、全生徒さんと講師へ作り置きとはいえお茶を届けようとした際に足りない、といったことであたふたしてしまうというのも、スクールとしての質が問われる問題なだけに、常連さんとお喋りしている暇があったらポットの麦茶くらい作ってくれてても、と、恐らくは誰もが思い、けれども口に出していない一つに違いなく。
だからこのおばあちゃん───瀬川さんと、いくら一番、暇な時間帯とはいえ、月に五回も二人だけの時間帯があると思ったそれだけで、どっと疲れた気になってしまう香苗だったが、きっとこれは私だけじゃないはず、と思うことで今まではなんとか乗り気ってきたが。
その日、カルチャーは新しい講座を発表し、そのチラシを近隣の郵便受けに投函した影響があってか、電話問い合わせがとても多く、講座自体は少ない日だったので、教室の入れ換え業務こそそうないものの、それでも講座が始まればまずはお茶配りへと行きたいところだったが、どうしても終わらすことが出来ない電話に捕まってしまっていた香苗に気づき、瀬川が大きめなお盆に一度に生徒さん分と講師分とを一辺に運ぼうとしたらしい、が、どうやら入り口のドアを開けるのに手間取ったらしく、なんとか香苗が電話対応を終わらせた瞬間、けたたましい物音がしてきた。
香苗はすぐに「やったな」と思い、瀬川が向かった教室へと走り寄ったものの、割れた器の破片集めに、講師のみならず生徒さんまで総出で瀬川の粗相への対応に当たっているのを見て、恐縮な思いいっぱいで、すぐにほうきとちり取りをもって来ますので、みなさんは講習へお戻りください、と謝罪と共に告げるも、一人の老人が香苗に向かっていったのだった。
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