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あなた、一番に出勤日数多いから、一番わかるんじゃないかと思って訊きたかったのよ、と一気に語られ、香苗はなぜか唖然とすることしか出来なかった。
けれどもそんな香苗の反応が店長には不思議だったらしく、悪気はないのかもしれないが、ズバズバと香苗の本心を衝いてきたのだった。
「溝口さんも瀬川さんのこと、持て余していたでしょう? 彼女が受け付けに居てくれると、カルチャーの雰囲気が良くってそれだけは私も有り難いと思っていたけれど、その分、最後の勘定が合わなかったり、麦茶の準備も以前と機械が違うからって出来なかったり、それにあれね、例の器引っくり返し事件、聞いたわよ。あなた、電話対応に追われてたから代わりに瀬川さんが行ってくれて、けれどそこで取り返しのつかない粗相をしてしまい申し訳ありませんでしたって、あなたに対してとても恐縮な気持ちでいっぱいになっちゃったみたい。あぁ、でも辞めるのはあくまで持病の腰痛の手術が決まったからだそうよ。入院とリハビリに二ヶ月近くかかるらしいから。それで、瀬川さんの穴埋め人員についてなんだけどね───」
話し続けている店長には悪いが、香苗は途中から一切の話が耳に、心に届いて来ていなかった。
確かに瀬川さんを持て余していたのは私だけではなかっただろう。店長の言葉も取りようによっては、瀬川さんは受け付けの置物か何かとしか認識していなかったようにも聞こえる。そして実際、彼女が居なくなったところで、この店舗に補給の人員は不要だろう。むしろそれで自分が勤務出来る枠が増えるなら願ったり叶ったりだ。けど。
(本当に、それでいいの?)
香苗は店長の話に対して、それでいいと思いますとだけ返すと、会話を切り上げた。そして。
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