目的とは

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そう言うと彼女は一つに結っていた髪の紐を取り払い、長い黒髪を揺らせてみせた。僕はじわじわと襲いかかる恐怖と焦燥感に身を任せかたかたと身体を震わせた。何て気分だ。これから死ぬという訳のわからない事実が降り掛かって、僕の心を蝕んでいく。両の掌に手汗が滲む。 彼女の姿が変わっていく。黒くてざわざわと囁く液体の様な何かが彼女の周りに纏わりついていく。気持ちが悪い。なのにそれを一ミリも気にしていないのか。彼女は愛でるように何の抵抗もなく受け入れ、体に溶かしていく。ずっと、ずっと。僕が何も言えなくなるほど、口が開かなくなるほど、喉が渇くほど。遂に原型が見えなくなって、そこでやっと気付いた。 彼女は人間じゃないんだった。 人型だということを忘れていた。なんてことだ。彼女はもう僕を守る者じゃない。その役を降りたのか。 彼女は今、化物となって僕に、最期のとどめを。 あっという間に変身した彼女は即座に僕に喰らいついた。逃げようと分かっていても逃げられない。足が動かないのだ。嫌な汗が滴る。自分の意思に関係なく体は一つも言うことを聞かない。酷いものだ。 聞き取れもしない彼女の独り言を聞いた後。 僕の意識に殺され、もう二度と目覚めることはなかった。 「本当は、こんな終わり方にしたくなかった。本当よ。でも、貴方はいつも勝手に何処かへ行ってしまうから。いつも一人で、それでいいと言うのだから。私にはそれが許せなかったの。誰にも頼らず傷つく貴方を見ることが、私にとって死に値する苦痛だった。だから。」
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