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セルフィッシュ
吐き出して、捨てる。
わたしの身を包む『優等生』を捨てることができていたのなら、つまらない日々は変わっていたのだろうか。
そんなことを考えながら吐き出す。給食に出てきた人参はわたしの嫌いな食べ物だった。でも食べられないことを周りに知られてしまうのが嫌で、ティッシュで口元を隠しながら。
人参相手なら簡単なのに、これを捨ててもつまらない日々は変わりそうにない。
食器を片付けるついでにごみ箱の前に立って、捨てようとした時だった。
「委員長、」
委員長というのはわたしのあだ名で、つまりわたしに声をかけているのだ。
嫌いな食べ物があることを誰にも気づかれたくない。おそるおそる振り返ると、クラスメイトの男子。わたしとごみ箱へ交互に視線を送っていた。
彼は飛田。勉強や運動が特段できるわけでもなく、目立った個性もない。数回ほど話したことはあるがそこに親しさはなく、必要に迫られての会話のみだ。
わたしより背の高い飛田を見あげていると、聞こえてきたのは「あー……」と気まずそうなうなり声だった。
「なんでもない」
しばし悩んだ後、飛田は背を向けて去っていった。これでは声をかけられただけの迷惑なものだ。食べ物を捨てるという罪悪感がなければ、『何の用だったの?』と追いかけて聞くことができたのに。
見られてしまった、と後悔が浮かぶがまもなく消えた。言い方は悪いがしょせん飛田だ。影響力のない彼に知られたところでどうなる。
この身を覆う『優等生』に傷ひとつつかない。そう答えを出して、わたしは飛田のことを忘れようと努めた。
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