セルフィッシュ

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 簡単に捨てられるものと、簡単に捨てられないものがある。  捨てられないものだと思っていた『優等生』を捨ててしまったのだろうと思っていた。母にもこのまま見放されて、いわゆる捨てられてしまう状況になるのではないかと恐れていた。  しかし、この『優等生』を捨てるのは簡単ではなかったようだ。 「私のクラスの飛田ですか。最近、夜にふらついているらしいと聞いていましたが……」 「パンを持ってこいって言われたの? あなたが?」 「いじめってやつですかね。パン一つのわかりやすい万引きなんておかしいと思ったんですよ」  大人たちは、わたしの想像もしない解釈をして、話を進めていく。 「違うの。わたしが飛田に勝手に持っていこうとしただけ」 「脅されているんでしょう? あなたが最近お小遣いを欲しがるからおかしいとは思ったのよ」 「彼女は私のクラスでも特に優秀な子でしたから、こんなことをするはずないと思ったんです」 「こんなに震えて可哀相に。よほどひどくいじめられているんだ。ウチにも娘がいるんですけどねぇ、やっぱりこういうコトはなかなか話してくれなくて。先生、しっかり頼みますよ」  大渦だ。『優等生』から作り出された誤解が、渦となって大人たちを巻きこんでいく。  この渦の中央にいるのはわたしだったはずなのに、おかしなことにそこには飛田がいて。  ああ、やはり。飛田は『特別』なのかもしれない。
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