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もはや『特別』なんて程遠い、ただの青く苦い思い出だ。しかし思い出すたびに考えてしまう。
あの時に戻れたのなら、もしくは目の前に現れたとしたら。飛田はどのような表情をしているのだろう。
『優等生』は捨てることができたが、かわりとして居座る浅はかな願望。傷つけた者が考えることではないとわかっている。しかし幸せそうにしていたのなら、この青臭い味が薄れるかもしれなくて。
人参味の飴はまずくて、食べられたものではなかった。
二度と買うまいと決め、ティッシュを取り出す。そして吐き出そうとした時だった。
前方からの靴音。それはわたしの前で止まって、視界の端に真新しいローファーが入りこむ。
ゆっくりと顔をあげて確かめていく。立ち止まっている誰か、知らない高校のスラックス。そして――
その顔を確かめると同時に、吐き出すつもりの飴を飲みこんでしまって、喉がごくりと音を鳴らした。
しかし不思議なことにさほど嫌ではないのだ。だってこの味は、
「特別な味がする」
呆然と呟くわたしと異なり、彼は笑っていた。そこにぎこちなさはなく、花のように。
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