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父親は帰らず、母親は育児放棄。飛田は両親に捨てられてしまったのだ。
捨てたもの、つまりごみだ。集めて、燃やして。そうして二度と帰ってこなくなる。
じゃあ人間はどうなる。飛田は捨てられたもの、両親に捨てられてしまった飛田は、どうなる。
「飢えたら、死ぬんだっけ」
当たり前のようなそれを、ぽつりと唱えていた。手の中には相変わらず給食に出てくる人参。ティッシュで包んだけれど、橙色がうっすらと透けていた。
いつものようにごみ箱に放りこむはずが、飛田のことを思いだしてしまったのだ。
飛田は今日も学校に来ている。今日もパンを持ち帰るのだろうか――いや、今日の給食は白飯だった。持ち帰るのはさすがに難しいはず。
放課後、わたしは公園に寄った。飛田はツツジの茂みを隠れ場所と決めているらしく、前回と同じ場所にその姿があった。
「委員長、どうしたの」
「今日の給食がパンじゃなかったから、気になって」
「ご飯だったね」
「持ち帰ってきたの?」
「ご飯はさすがにバレるから持ち帰れないよ。今日は夕飯抜き」
飛田の口角がわずかにあがるも、笑っているとは言い難いぎこちないものだった。その切なさがわたしの胸を締めつける。
今日の飛田は膝を抱えて座りこんでいたから、捨てられた猫を彷彿とした。息をひそめて身を縮めた姿は、ひとりで生きていけない子猫に似ている。
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