セルフィッシュ

5/11
前へ
/13ページ
次へ
***  父親は帰らず、母親は育児放棄。飛田は両親に捨てられてしまったのだ。  捨てたもの、つまりごみだ。集めて、燃やして。そうして二度と帰ってこなくなる。  じゃあ人間はどうなる。飛田は捨てられたもの、両親に捨てられてしまった飛田は、どうなる。 「飢えたら、死ぬんだっけ」  当たり前のようなそれを、ぽつりと唱えていた。手の中には相変わらず給食に出てくる人参。ティッシュで包んだけれど、橙色がうっすらと透けていた。  いつものようにごみ箱に放りこむはずが、飛田のことを思いだしてしまったのだ。  飛田は今日も学校に来ている。今日もパンを持ち帰るのだろうか――いや、今日の給食は白飯だった。持ち帰るのはさすがに難しいはず。  放課後、わたしは公園に寄った。飛田はツツジの茂みを隠れ場所と決めているらしく、前回と同じ場所にその姿があった。 「委員長、どうしたの」 「今日の給食がパンじゃなかったから、気になって」 「ご飯だったね」 「持ち帰ってきたの?」 「ご飯はさすがにバレるから持ち帰れないよ。今日は夕飯抜き」  飛田の口角がわずかにあがるも、笑っているとは言い難いぎこちないものだった。その切なさがわたしの胸を締めつける。  今日の飛田は膝を抱えて座りこんでいたから、捨てられた猫を彷彿とした。息をひそめて身を縮めた姿は、ひとりで生きていけない子猫に似ている。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加