セルフィッシュ

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***  スーパーの従業員控室に入ることははじめてで、店内の明るさや活気はなく、狭いからか陰鬱とした気がしてしまう。いや、違う。陰鬱とした印象を抱くのはわたしのせいなのだろう。  その狭い部屋に従業員が二人。駆けつけてきた母はいつもより青白い顔をしていて、学校の先生までも呼び出されていた。  大人たちは鋭い失望のまなざしを向けながら言うのだ。 「どうして万引きしたの」  この非日常の空間でお馴染みとなってしまったそれに対し、わたしはうつむく。  理由を明かすわけにはいかない。飛田のことをしゃべってしまえば、救えなくなるのだから。  テーブルには学生証と、パンがひとつ。それを囲むように大人たちが失望や謝罪といった様々な負の感情をぶつけあう。理由を語らぬわたしを置いてけぼりにして、大人たちの会話は続いて。  飛田は、どんな風に捨てられたのだろう。  父親は家を出て、母親はすべてを放棄し――置いてけぼりになって、気づいた時には捨てられていたのかもしれない。  こんなことをしてしまったわたしも捨てられてしまうのだろうか。 「ねえ、どうして万引きなんてしたの」  失うことが急に怖くなった。  何度目かのその問いかけに対し、おそるおそる言葉を紡ぐ。 「飛田に、持っていこうと思いました」  その理由が大人たちの表情を変えた。
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